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2013年5月25日土曜日

「ブレハッチはベートーベンの魂を感じさせる。」リサイタル・レビュー、ローマから。/「ショパン名演集」のCD。

イタリアのCitta Nuova に掲載された、ラファウ・ブレハッチのローマでのリサイタル(5月17日)のレビューです。

オリジナルのレビュー

(Quote)
ショパンは今も、そして永遠に。

ローマのサンタ・チェチーリアのリサイタルで、28歳のラファウ・ブレハッチは、バッハから、偉大なポーランド人作曲家・ピアニストにいたる幅広いレパートリーで聴衆を魅了した。

その特異性というか、独自性によりカリスマを感じさせる演奏家がいる。28歳のポーランドのサラブレッド、ラファウ・ブレハッチもその1人だ。彼の演奏会はいつも、――私達はサンタ・チェリーリアで感じるわけだが――、事件と呼べるほど重要だ。ブレハッチがそこに居るだけで、特別の雰囲気を創りだす。静穏さが会場の隅々まで広がり、聴衆の心を満たし、くつろがせる。昨今の大変な時代には、この音楽は些細なことではない。

ブレハッチはバッハのパルティータ第3番イ短調の7つの組曲をまず演奏した。彼の指から喜び、内省、秩序、平静さが広がる。光彩を放つバッハの演奏だが、よく制御されて地に足がつき、かつ自由な演奏だ。鍵盤はきっちりと制御されている――ピアノが原曲のハープシコードの代わりに使われているが、ブレハッチの銀の響きは、古楽器の響きを想像させてくれる。

彼は次に、ベートーベンのソナタニ長調作品10-3へと移った。この若い演奏家は幻想的なLargo e mestoで最高のものをきかせてくれる。ロマンティックな感性はとても鋭敏で情がこもり、悲しく、言うに言われない痛みを予兆させる。音色は張り詰め、際立って明瞭で、決して曖昧に乱れたりはしない。ここで、澄んだ音色のリリシズムが明暗の影の部分、深い和音に触れる。叙情的な瞬間はこれにとどまらない。内面の声に耳をすませる特別の瞬間に、ブレハッチはベートーベンの魂を感じさせてくれる。彼の運指法は非常に明瞭でありながら柔らかく、それゆえ、心を揺さぶる。

ついに敬愛するショパンに到達し、彼は音色の美へと私たちを導く。流れ落ちるトリルと装飾音、次第にゆるやかに次第に弱く、激しくそして静かに・・・。純粋なロマン派音楽。ショパンのあの有名な「ルバート」は、――歌であれば同時代のベッリーニもそうだが、――ブレハッチの演奏では自然に起こり、旋律を助け、感情的価値を豊かにする。ノクターン変イ長調作品32、2つのポロネーズ(イ長調とハ短調)、3つのマズルカとスケルツォ第3番嬰ハ短調が弾かれ、純粋な詩情の高揚した瞬間が次々と展開する。

ブレハッチは確かに詩人だが、異なった意味合いでそうだ。彼は音楽を提供する方法において、ショパンを解釈するのでなく、ショパンになってしまう。深い内面のささやきや感情の起伏を捉え、感傷的にならずに距離をおきつつ、ショパン音楽の心を深く尊重し、繊細にバランスを保って表現する。

素晴らしい夕べだ。
(Unquote)

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今年の1月30日に、「ショパン名演集」というタイトルで、ブレハッチの2005年ショパンコンクールの演奏を全曲集めた2枚組CDが発売されたこと、ご存知の方も多いでしょう。これは2006年に同じレコード会社から出たコンクール実演奏集と全く同じ内容ですが、今回は2枚組で3000円と、お値段的には安くなっています。

同じ音源なので特に購入する必要はなかろうと、スルーしていたのですが、最近ちょっと必要があって、アマゾンでこのCDのことを見たところ、カスタマーレビューに、「ライナーノーツの内容が、演奏家の近況に合わせてアップデートされていないのは残念。」ということが書いてありました。

興味を持って購入してみたところ、確かにライナーノーツのブレハッチの紹介は、2006年の旧版と同一でした。ただ、旧版は1,2次予選分のCD1と、3次予選、本選分のCD2で、ライナーノーツの著者が異なっていたのが、今回は同じ方が書かれており、つまり1,2次予選の曲目紹介のみが、新たに書き直されていました。

ライナーノーツのブレハッチの紹介自体はコンクール直後の生き生きとした雰囲気が伝わり、コンクールの演奏集の解説としては素晴らしい内容です。私も当時、繰り返し拝読したことを覚えています。ただ、学校等現在は変わっている事実もありますので、できれば紹介の最後に、2005年のコンクールの直後に執筆された旨明記されていれば、新しい聴衆にとっても誤解がないだろうな、などと思いました。


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その後、このCDについて、ブレハッチ氏と話す機会がありました。

「もう、8年も前のことだよ?」「日本だけの発売だね?」

遠い目、という感じでした。彼の演奏をフォローし続けていると、もう8年も前のこと、ということが感覚として入ってきます。打鍵も弾き方も音楽性も人も、変わり続けていると感じます。

(2013年6月7日、追記)


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ライナーノーツといえば、去年2月にも、ブレハッチ氏のCD「ドビュッシー・シマノフスキ」がリリースになった直後に、彼と少し話す機会がありました。新譜の話題になった時、「日本版のライナーノーツの内容は、欧州版(彼はInternational version と言っていました。)と同じかどうか。」ということを、まず質問されました。

彼がドイツ・グラモフォンから出しているCD4枚のうち、最初の2枚「ショパン前奏曲」「ウィーン古典派ソナタ集」は、日本でのライナーノーツは日本独自の内容になっており、3枚めの「ショパン協奏曲」から日本版も欧州版と同一になりました。演奏家としても気になるところだったのかもしれません。

(厳密にいうと、CD「ドビュッシー・シマノフスキ」のライナーノーツは、日本版には欧州版プラスアルファの部分として、各楽曲の解説が追加されています。そして、日本独自の内容としてボーナストラック「月の光」が収録され、それに対するブレハッチ自身のメッセージが追加されています。)