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2009年5月24日日曜日

ラファウ・ブレハッチインタビュー「夢を追いかけて」(ポーランド)

逐語訳ではなく、サマリーというか、まるまった訳になっています。


オリジナル記事(ポーランド語)





YouTubeのオリジナル画面 (↑これより大きな画面です。)
タイトル:
Rafał Blechacz gra specjalnie dla czytelników "Gazety Pomorskiej"
(ラファウ・ブレハッチ、Gazeta Pomorskaの読者のために特別に演奏。)


ラファウ・ブレハッチ:夢を追い続けて (ビデオ)
インタビューアー:Adam Willma
2009年5月22日付け


携帯電話のない生活でも平気ですか。
はい、家にはもちろん携帯はありますが。仕事の連絡はワルシャワのマネージャー(secretariat)が管理しています。

インターネットを使わないとしたら?
それは無理です。インターネットを使って演奏会のオファーや録音時の連絡を取り合っていますので、ツアーの時もパソコンを世界中持ち歩いています。

友人のメールは読んでいますか。
読みます。郵便でもたくさん手紙がきます。
Rafał Blechacz, Nakło nad Noteciąという宛名で着きますので。

ファンクラブがいくつかあるそうですね。
オフィシャルなファンクラブはショパンコンクールの後できて、約1000人の(or多くの)会員がいます。世界各国でなじみのファンのチームに会えるのがいいですね。

スケジュールはどうなっていますか。
2005年のコンクールの直後、日本のエージェントからいただいた5年カレンダーがいっぱいになって新しいのを買いました。2012年まで埋まっています。

はめをはずすような時間がないのでは?
普通の時間ー家族と過ごしたり、学校、レパートリーを広げる時間はとるようにしています。はめをはずすこともありますが、これは、皆さんが知らなくてもいいことですね(笑)。カメラや好奇の目にさらされるのでは、と心配することなく、プライベートや家族との時間をとることは大切です。コンクールの直後にこれを悟りました。ガードに守られていても、人が押し寄せ、エレベータの各階で写真をとられ、妹はめがねをなくしました(笑)。今は、うまくバランスがとれるようになりました。

純粋な芸術から、ビジネスへと移る道をどう振り返りますか。
コンクールの直後は、誰もが音楽でなくビジネスのことばかり話して、怖かったです。映画やコマーシャルに出演、というのも含め、様々なオファーがあったので、どこが信頼できるのか、自分で調べなければなりませんでした。今はしくみもわかり、僕の仕事をオーガナイズする人も見つかり、平穏に計画をたてることができます。最近、アムステルダムで、12カ国のエージェントの代表者が集まるミーティングがDG主催でありました。普段メールで連絡をとっている相手方が全員集まるという画期的な会議で、注意深く演奏会や録音についての計画の概要を考えることができました。コンクールの直後はツィメルマンがいろいろアドバイスしてくださいましたし、彼の経験を知ることで、年間の演奏会は40回まで、というのが自分にとって一番バランスがとれるとわかりました。中には年間100回も演奏しているアーチストもいますが、僕は演奏が義務になり、機械的に弾いてしまうのはいやでした。これまでは大丈夫でしたが、時々体が警告ランプをつけることもあります。

賞賛の言葉には心動かない?
同じような賛辞は頻繁に耳にします。でも人が感じたことを言うのは自然なことです。ポーランド人、とくに外国に住むポーランド人は、僕の成功を愛国主義的な目で見ていることに気づきました。

高等教育機関がクラッシック音楽の勉強の機会を提供する一方、受講生は減ってきています。若い音楽家から助言を求められたことはありますか。
最近ロンドンで、ある女の子が、音楽の道と医学の道とどちらに進むか、ジレンマを感じているといってアドバイスを求めてきました。僕の場合はいつもピアノが弾きたくて弾いてきたので、そういうジレンマはありません。そういうジレンマのある人にとっては、音楽の道が正しいかどうかは疑わしいと思います。ツィメルマンも言っているとおり、直感はとても大切です。音楽にとって直感はとても重要で、解釈を深めようとすると、直感に頼ることになります。いい例がショパンのルバート、捕らえにくいテンポです。説明は最後までできないのですが、僕はこうするのがいい、他のテンポは違うと、ただそのように感じるのです。

1日でゴールドディスク、2週間でプラチナディスク。しかし、マーケットでは常に新譜が出されています。あなたのレーベル、ドイツグラモフォンは、マウリツィオ・ポリーニやマルタ・アルゲリッチ、クリスチャン・ツィメルマンがいます。
そういうことは考えず、自分に集中した方がいいと思っています。コンクールの時も他の演奏は聴きませんでした。もちろん前奏曲の録音の前、DGでの最近の録音状況を調べました。各地で有力アーチストとすれ違うこともあります。去年NYで演奏したときは、ツィメルマンと会う機会がありましたし、彼は前年の僕の東京でのリサイタルを観に来ました。NYの演奏会の同じ日、同じ時間に、アルゲリッチがプロコフィエフを弾いていましたし、今回のパリの演奏会の日には、ユンディ・リーがサル・プレイエルで演奏していました。

フィットネスしていますか。
以前ほど走らなくなりましたが、定期的に運動するよう、心がけています。
最近はノルディック・ウォーキングが気に入っています。

飛行機ではどんな本を読みますか。
哲学の本を何冊か。トルンのニコラス・コペルニクス大学のドクターコースで勉強を始めました。授業はゆったりしていますが、必要な文献は全部読むようにしており、満足感もあります。次のCDのブックレットには、僕と、哲学者Władysław Stróżewski教授との対談が入ることになると思います。哲学の勉強は、音楽の意味の根幹を捕えるのに役立っています。飛行機では寝ていることが多いかな。可能な限り、車で移動するようにしています。リラックスできるし、飛行機より短時間で着く場合もありますから。

車内では何を聴いていますか。
自分のCDは聴かないようにして(笑)、でもDGから録音がOKか訊かれている場合は聴きます。

頻繁に修正をなさいますね。
はい、でも修正は録音の時だけです。録音したものを1日の違う時間帯に何回か聴いて、ディテールをつかみます。録音が終了した後は、修正はしません。あまりニュアンスにフォーカスしすぎて、音符ごとにソフトだとか大きいとかこだわると、音楽が語る全体像が見えなくなってしまうので意味がありません。個々の音でなく音楽を聴くべきです。だから僕は車中で良い音楽を聴くようにしています。自然の雑音があるので、細部でなく音楽に集中できるからです。しかし、時にはストップウオッチを使って、曲の間の休止時間を測ることもあります。ハイドンのソナタがそうでした。第一楽章の最後は変ホ長調の和音で終わり、第二楽章はホ長調の和音で始まります。ハイドンがこのような”不協和音”を取り入れたのは驚きですが、ここで休止が長すぎると、聴き手は半音の移動に気づきません。また、休止が短すぎると、音が十分ふくらまず、調子の変化に聴き手はついていけません。1秒より短い時間が、音楽の質を決めてしまうことがよくあります。録音の方法にも注意すべきです。マウリツィオ・ポリーニはマイクとマイクの間隔を少しばかり長めにとるのが好みです。これでコンサートホールにいるような効果があります。僕はもう少し間隔を狭くします。その方が、ダイナミクスがもたらすニュアンス、”マイクロ・ダイナミクス”を表現できるし、これは通常のコンサートホールでは追求することができません。解決方法はいろいろありますが、普通は6本のマイクで録音するとして、うち何本かはピアノから8メートル離して設置し、自然の反響を集めるようにします。(マイクの設置位置に)適切な割合を選ぶのは、ちょっとした技なんですよ。

ツィメルマンは自分のピアノを持ち込みますが、あなたは各会場の楽器を使っています。不慣れな楽器は大変ではないですか。
グランドピアノはサプライズが多くて、古い楽器の方が新しい楽器よりきれいに響くこともあります。メンテナンスや保管場所、部屋の温度などが影響しています。僕はオルレン社が資金を出してくれた自分のスタインウェイが気に入っていますが、ツアーで一番気に入ったのは、アムステルダムコンセルトヘボウの楽器です。素晴らしい調整がなされ、まさにマジシャンの手技です。この楽器で、今後のCDを録音するんですよ。

オランダの聴衆もお好きだそうですね。
類まれなる聴衆だと思っています。オランダは、小さな町でも音楽への関心がとても高く、人々は真剣に静かに聴いて、自然な反応をしてくれます。ドイツの聴衆も同じです。以前、ドイツに行く前、この国の聴衆は距離感があって冷たい、演奏が気に入ったとしても反応がないのでわからない、と聞いていたんです。でも行ってみて驚きました。歓声、スタンディング・オベーション、そしてアンコール。今では、ドイツの聴衆は大好きです。作品をよく知っていて、真剣に集中して聴き、演奏者に惜しみない反応を返してくれます。

偉大な音楽の遺産が生まれたようなコンサートホールにもいかれましたね。そういうのを感じましたか。
気づいて、わくわくして、いつも喜びでいっぱいです。2回目以降はそうでもなくなりますけど(笑)。

パリでの2回連続の成功で、のぼせてしまうこともあるでしょうか。
そのことはよく認識しています。努力や自己犠牲があったがゆえに、成功すると、そういった誘惑に屈することがあると。音楽家は成功でのぼせてしまうと、すでにアーチストとして失敗する運命にあるでしょう。将来や、まだまだ克服すべき問題が見えなくなってしまいますから。

グローバルな危機で演奏活動に影響はありますか。
幸いありません。話題には出ていますが。

また、音楽業界では、CDというメディアが緩慢な死に至るのではと心配しています。音楽の販売はますますインターネットにシフトしています。
そのとおりです。僕は2枚のCDを録音したとき、インターネットでのみ入手できる短いトラックをそれぞれにつけました。この販売方法はアメリカではとても人気がありますし、ヨーロッパでも普及は時間の問題ですね。

あなたの音楽はオンラインの海賊版でも聴くことができます。
大勢の方からそのことを言われます。でも僕に何ができるでしょう。これが現実というものです。
それよりも、僕は、自分のコンサートをアマチュアの聴衆がこっそり録画して、インターネット上に公開していることの方が心配です。録音の音の質がとても悪いんです。

ツィメルマンが最近アメリカで、戦争への関与を批判し物議をかもしました。あなたは現実に対して発言しないのですか。
クリスチャンは52歳、僕は23歳ですよ。クリスチャンは常に自分の考えを述べ、紛争の平和的・外交的な解決を求める発言をしてきました。2年前、アーヘンの演奏会で、彼は聴衆に向かって、武装紛争に無駄な支出をするのでなく、(演奏会場だった)学校の音響の改善に使うべきだ、と言いました。彼はその勇気によって認識されているし、彼の言葉はマスコミを通じて世界に聞かれていると思います。

あなたは政治的メッセージは発信しないのですか。
しませんが、ときどき政治から逃れるのがむずかしいと感じています。

作曲はやめてしまったのですか。
以前、ピアノ曲やピアノ三重奏を作ったことがあります。今は時間がないのと、作りたい気持ちがないのと。自分の心の状態に反することをするのは無意味ですから。

あなたの心の状態がクラッシック以外の音楽を受け入れることはありますか。ジャズとのフュージョンをしている演奏家もいますが。
そうした実験はいいことだと思います。そうして出来上がった音楽は多くの人々の関心をあつめるでしょうから。僕は(ジャズ等は)必要ないと思っていますが、例えばガーシュウィンの音は面白いな、と思っています。たぶん近いうちに、アンコールでガーシュウィンを弾けたらと思います。最近パリでMark Tomaszewski と会い、有名なデュオ Marek and Wacekの話をする機会がありました。技術や即興について興味深い話が聞けました。

今後20年のシナリオは演奏ツアーや新しい曲、CDといったところでしょうか。
10年前、世界各地で人々のためにピアノが弾けたら、幸せだろうなあ、と言っていました。今、このシナリオが実行できています。この先20年、もし聴衆のために演奏することができ、同じ理由でやはり僕は幸せだと思うことができれば幸いです。

新しいレパートリーの準備はどのようにしていますか。
ツアーの合間の時間を使って、家でも練習しています。夕方や夜が多いです。

ご家族はつま先で歩いているのでは。
両親は気配でわかってくれます。さらに発展し演奏家として創造できる良い環境に恵まれ、うれしく思っています。

最新スケジュールでは、次に何が聴けますか。
ショパンの2つのピアノコンチェルト、これは3枚目のCDのために録音されます。録音で共演したいオーケストラと指揮者について、ドイツグラモフォンは僕が選べるようにしてくれました。そこで、僕の大好きなアムステルダムのコンセルトヘボウ管弦楽団を選びました。このオケはユニークな色彩とベルベットのような音を出すことができます。きつ過ぎず、渋すぎない音、ショパンのコンチェルトにとってはパーフェクトです。団員はショパンの移ろうリズムを言葉なしに感じる素晴らしい感覚を持ち、ソリストへの反応もとても柔軟です。素晴らしいアドベンチャーになることを期待しています。さらに、指揮者はイェジー・セムコフ、是非共演したいとずっと望んできました。またひとつ、僕の夢を実現することになります。


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2009年5月16日土曜日

ブレハッチのピアノと、スペイン・ポーランドでの報道表現

スペイン人は大きな言葉を使ってたいそうな表現をする人たちだと思っていました。
ラファウ・ブレハッチのスペインツアー(09年4-5月)のレビューでも、ふむ、と思える表現が、ちらほら見られました。

「彼は間違いなく、21世紀のピアノ界のスターになるだろう。」
フリアン・カリーヨ、ラ・コルニャでのサンサーンス協奏曲のレビュー

「彼は、’戦場のピアニスト’の主人公がドイツの将校を感激させたのと同様、聴衆の心を捕らえた。」
フリオ・マルデ、ラ・コルニャにて

「ラファウの現在のクオリティを見るならば、このまま成長すれば、彼はグローバルな現象になる。」
レオポルド・センテロ、ポンテベドラでのサンサーンス協奏曲について

「貴重な真珠のような、アポロンのピアニズムが身についている。」
ホアキン・グスマン、バレンシアでのベートーベン協奏曲第4番について


「ベートーベンの協奏曲第4番は、オケがソロピアノを覆い隠したり、近代のピアノの場合は逆にソロがオケを隠したり、
大変むずかしい曲だが、演奏者の素晴らしい資質によって、この問題は解決した。
ラファウ・ブレハッチは4日前のリサイタルで見せた偉大な成功を、再確認させる演奏をした。」
ブロトンズ・アルフレッド・ムニョス、バレンシアにて

最後のムニョスは、特に派手な表現は使っていないのですが、
彼が4日前のリサイタルについて書いたレビューが、厳し目の見解だったにもかかわらず、
この協奏曲のレビューでは、「4日前のリサイタルは大成功」と述べているので、
「そうか、はしゃいだ表現はしない人なのね。」と納得しました。

全体的に、スペインでは、じっくりと演奏を聴き、細かいところまで評価している、
という感じのレビューがいくつかあったな、という印象です。
意外と落ち着いた感じでした。


私はポーランド人の性格とかポーランド語の表現の特徴は、他の言語に比べるとなじみが少なく、あまり知りません。
しかし、5月14日、ブレハッチがパリのシャンゼリゼ劇場で演奏したサンサーンス協奏曲第2番については、
ポーランドの多くのメディアが、「にぎやかに」報道しました。
ニュースネタは皆同じ通信社(PAP)のものを使っていて同じなのですが、
タイトルを変えることで個性を出していました。

「ブレハッチ、フランスの聴衆を拉致(心を捕らえた)」Wprost 24他。



「ブレハッチ、フランス人をノックダウンし、ひざまづかせる。」Gazeta.pl.Wiadomości他。


Gazeta.pl.Wiadomościでは、
この写真に「ラファウ・フリデリック・ブレハッチ」というタイトルをつけていました。
フランス語のFrédéricでなく、ポーランド語のFryderykです。

(写真自体は、2005年にグダンスクで撮られたもので、今回のパリとは無関係です。)



「ラファウ・ブレハッチ、パリを征服」Rzeczpospolita他。

「ブレハッチ旋風がパリを席巻」ポーランドラジオ

など。

内容は、ブレハッチに関する部分は、拍手や歓声が長く続き、ブレハッチはアンコールを2曲(ショパンのプレリュードとマズルカ)弾いたこと、
観客の中に、「戦場のピアニスト」のポランスキー監督がいたこと、
あとは、コンクールとその後の各国での演奏経験、DGとの契約、CDといった一般情報です。

今回のパリについてのポーランドのメディアの反応は、去年1月のパリ・リサイタルデビューや、
他のイタリアやドイツのなどの重要都市での演奏会の時より広い感じがします。
(ザルツブルク音楽祭を除く。) 



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2009年5月9日土曜日

バレンシアのある聴衆が見た、リサイタルでのブレハッチ

英語ブログに載せた記事、そのまんまの和訳です。
今回のスペインツアーでは、プロが書くレビューに加え、いくつかのブログ記事が目をひきました。
きちんとしたレビューになっており、プロが、「21世紀の星!」とか「グローバルな現象」とかはしゃいでいる一方、
むしろ一般の愛好家の方が正確・客観的に評価しているように思いました。


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(和訳)
ラファウ・ブレハッチの5月5日、バレンシアでのリサイタルに関しては、4,5件のブログ記事を見ました。
以下、とっても網羅的だな、と思えるものをアップします。

著者(男性、たぶん30-40歳位?)は、ご自身のブログに音楽レビューをいくつも書いておられます。
ブレハッチのファンではなく、(CDソナタ集はまだ聴いていないそうです)
しかし、リサイタルでのブレハッチや聴衆の反応を細やかに記述していらっしゃいます。



オリジナル・レビュー記事(スペイン語)

(ブレハッチの紹介:コンクール、DGとの契約等、省略)

ラファウ・ブレハッチが昨日バレンシア音楽堂のサラ・ロドリゴで感動的なコンサートを開いた。
バレンシアの聴衆のための、外国室内楽とソリストシリーズの一貫で、主としてポーランド人作曲家に焦点をあてたプログラムだ。

しかし、彼はショパンが深く敬愛したバッハのイタリア協奏曲で演奏を開始した。

彼は優雅で高貴なフィンガリングと、1ミリレベルの正確さで、最初のリズムを演奏し始めた。
これは昨夜の演奏全体に言える特徴だ。

完全無比の技術力の実行、自己顕示は一切ないが、しかし、冷たいのいうのとも全く違う。
明瞭なシンプルさで、彼は最終楽章プレストの途方もない速度を、親密で深い味わいのあるアンダンテにつないだ。


「ショパンの後継者。
彼の手は、まるで一対の白鳩のよう。」
あるスペイン女性のブログより。
ガリシアでのコンチェルトに感激して。



残念なことに、極めて美しい第二楽章で、ポーランド人ソリストの奏でる微妙な味わいは、
テロリストの如き咳と痰をすする音、獰猛なくしゃみの攻撃を受けた。

これが豚インフルエンザの影響かは知らない。しかし、連中の豚のような態度を見れば、その可能性はあるだろう。
実際、昨日のバレンシア音楽堂での聴衆の態度は、他の本会場でのコンサートや別の会場より、概ねずっとましだった。

ブレハッチは丁寧に、鍵盤と手を拭いた。彼は曲の開始ごとに、この動作を繰り返した。

次に彼はザルツブルクのモーツアルトの領域へと勇ましく進んだ。
曲は、ソナタk570。

ブレハッチは天才的なテクニックと解釈能力を確信させた。
しかし、昨夜のリサイタルではこの曲においてのみ、冷たい感じが直感的に感じられた。

同じポーランド人作曲家シマノフスキの変奏曲op3は、音符の奔流をつきすすみ、どんどんと感情の高まりを見せ、
極めて困難な曲であるにもかかわらず、ブレハッチは深く感動的な解読を示し、この最高に美しい曲に潜むあらゆるニュアンスを表現、
前半最後を情熱的に締めくくった。





しかし、最高のものは、まだこれからだった。
後半は全てショパンの曲。
ブレハッチは、なぜこの同国の作曲家の演奏にかけては専門家とみなされるのか、明らかにした。

驚くほど美しい作品、バラード3番op.47。
ブレハッチは23歳とは思えない深く円熟した演奏をし、優雅に、極めて純粋に楽器を操った。

ショパン晩年の作品である、2つの夜想曲op. 62は、印象派への進化をにおわせる特徴がある。

この夜想曲と次の4つのマズルカop.17では、演奏のリリシズムは最高度の高みに達した。
彼はひけらかすような所作は一切ない。
清浄かつ流暢なフレージングにより、彼が一音一音から引き出す感受性と詩情は、我々の耳を優しく撫で、
ついに聴衆の心を奪い、感動に満ちた聴衆は、今度は皆、修道士のごとく静寂となった。

(筆者はここで、夜想曲 op 62-1のビデオを貼り付け )



Sala Rodrigo of Palau de la Música in Valencia

もう一度鍵盤を拭いた後、ついに英雄ポロネーズop.53を開始した。
勇壮なこの曲を、他のピアニストであれば過度な熱意でこれみよがしな演奏をするところだが、
ブレハッチは他の作品の演奏と同様、精密なテンポと完璧で流暢な演奏を続けた。
強力かつ清潔な音色。愛国主義的に楽器を叩くことなく、知的な譜面の解読によって、彼はまたも会場を感動で満たした。

当然長く続く拍手とブラボの歓声が、にこにこするブレハッチに贈られた。
彼は何度もステージに戻され、ついにベートーベンのソナタop2-2のスケルツオを演奏した。
優美で生き生きとしたアンコール。


悪く言えば、古い、簡単な音楽。何千回と耳にされてきた楽曲。
しかし、だからこそ、彼が昨日行ったように、聴衆に感動を与えようとすることには意味がある。
この、とても若いポーランド人は、しかも、自分の演奏を楽しんでいたし、
(まだその域には達しないのかもしれないが)、「21世紀のピアノの星」と今は称されている。 

(注:ガリシアの演奏会のレビューで、ある評論家がブレハッチをこのように呼んでいたので、
そのことをさしていると思われます。)


(筆者はここで、英雄ポロネーズのビデオを貼り付け。)



著者は、大きな咳やくしゃみを、テロリストと比喩しています。
先日、ブレハッチのパリのリサイタル(3月27日)がラジオ放送された際、同様の「爆撃」を私も聞きました。
咳は仕方ないけど、せめて手で口をおおえばいいのに、と思いました。

*彼のブログのコメント欄に、「そのテロリストの座席は○列の○番だった。」という告発がなされていました。
約1名、困った人がいたのですね。 400名程度の小さなホールなので、めだったのでしょう。
パリは大きな会場(約2000席)で、もうクラスター爆弾のごとく、あっちこっちから爆音が聞こえていました。

別の記事で、バルセロナでのリサイタル(4月28日)で、聴衆のマナーが悪く、さまざまな音(床にものを落すとか)
が聞かれた、というのも見ました。


にもかかわらず、ブレハッチ自身は、
「バルセロナは大きな会場も(注:カタロニア音楽堂、2200席、世界遺産)ほぼ満席で、
聴衆の反応がとてもよく、いい雰囲気でエネルギーをもらい、
彼らのためにいい感じで演奏できた。」
と、機嫌よく発言していたそうです。
素晴らしい集中力デス♪

去年、ドイツの インタビューで、 ブレハッチは、どんな聴衆が理想的ですか、と問われ、
彼の答えは、

「コンサートの間咳をせず、携帯をオフにし、お菓子の袋を開けず、寝ない聴衆。
つまり、演奏を聴いてくれる聴衆。でも無理ですね。」


無理・・・じゃないですよね。アタリマエのことですよね。
少なくとも日本では。(と信じたいデス。)



5月15日の早朝、ブレハッチとフランス国立管弦楽団のパリでの共演が生放送されます。
前回のパリのリサイタルと同じシャンゼリゼ劇場、放送も同じラジオ局です。
Preludiaに書いておきましたが、念のため。
日本では、5月15日、午前3時から5時28分ですね。
MP3のリンクは、前回のリサイタルのときと同じだと思います。
急なキャンセル、番組変更の可能性もあると思います。


ラジオでの生放送はなくなったようです。私が気づいたのは、日本時間の5月14日19時すぎです。
こちら


ブレハッチがパリでオケと共演するのは、初めてではないかと思います。
Pour son premier rendez-vous parisien avec orchestre,
Blechacz interprète le Deuxième Concerto de Saint-Saëns (乾杯♪) 

(↑・・・プレビューのコピーです。)

2007年の10月に、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団と、彼らの地元で共演していますので、
フランス全体では2回目、ですね。
今回は、プログラムもとてもフランスです。。

↑ スミマセン、この前に、2006年のラロックダンテロン音楽祭で、(つまりフランスで)コンチェルトを弾いています。
オケはワルシャワの国立管弦楽団でしたが。
偶然この記事を見直して気づきました。(2009年9月7日、追記)



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2009年5月1日金曜日

「私たちのピアニスト」-ブレハッチ、ロンドンでのインタビュー

ブレハッチが4月22日、ロンドンでリサイタルを開いた際、ポーランド誌のインタビューを受けました。
Preludiaで、5月1日に掲載しましたが、その和訳になります。
(提供元から許可をもらいました。)

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ポーランド語週刊誌「Cooltura」のElżbieta Sobolewska が、4月22日のロンドン・ウィグモアホールでのリサイタルの直後、
ラファウ・ブレハッチにインタビューした。

インタビューはelondyn.co.uk に5月1日付けで掲載された。

インタビュー(ポーランド語)

私たちのピアニスト
by Elżbieta Sobolewska

2005年のショパンコンクールの優勝者、もうすぐ24歳になるピアニストがロンドンに堂々の再登場。
ラファウ・ブレハッチ、ウィグモアホールの聴衆を魅了。
 


バッハとモーツアルトの後、彼は熱い喝采を受けた。
シマノフスキの変奏曲の後、「すごい!」と聴衆はささやきあった。
そして、彼がポロネーズ変イ長調、いわゆる「英雄」を演奏すると、聴衆の熱気は頂点に達した。
アンコールから始まって、人々はラファウと気持ちを分かち合う時間を持った。

「イギリスでは、”私たちのピアニスト”のCDの数が足りなかったって、書いてね。」
音楽ファンであり、詩人でもある女性が力を込めて言った。
ラファウの演奏中に詩を書いたのだという。
できた詩は郵送するが、最初の部分を、コンサートを終えたラファウに読んできかせ、サインしてもらった。


インタビューで約15分、彼と話した。
明朝一番で、次のコンサート地に移動するという。いつものように父君が同行している。
今年の秋、ラファウ音楽の愛好家は、彼の3枚目のアルバムを耳にすることになる。
クラッシック音楽では世界一権威のあるドイツ・グラモフォンが録音を担当する。
1枚目のCDと同じく、今回もショパンの曲となる。


「彼は、僕の心のとても近くにいます。
彼のおかげでこんなふうに世界中で演奏する機会を得たことに感謝しています。
ショパンの音楽に出会うために、古典から印象派にいたるまで、僕はいろいろなスタイルの作品を勉強しました。

ショパンの音楽にとても重要な、色彩や音色に対する僕の感受性は、かなりの部分がドビュッシーを通じて形成されました。
これは、ショパンの作品を理解するうえで、とても役にたちました。
他の作曲家を探求することによって、ショパン音楽を熟成させてきた、と言ってもいいでしょう。」
とラファウ・ブレハッチは言う。


ピアノから距離を置いたことはなかった。常に友達だった。


「最初から、ピアノを弾きたいという意志が、自分の中にありました。
最初は生徒として、やがて学生として実践した練習は全て、演奏技術を磨いてくれました。
自分の宿題はやらなければならなかったけれど、それがなければ、芸術性や演奏をさらに向上させることはできなかったと思います。」
と、彼は続けて言う。


彼は演奏会が好きだ。
プレッシャーは感じず、喜び、やる気、熱意を感じる。舞台であがることはない。


「人前での演奏に従属はしたくないし、次々とコンサートをするために生きる、
ということもしたくありませんが。

名声も、僕の目的ではありません。仕事した結果、ついてきたものです。

自分の中では、競争したいという気持ちはありませんが、
一方で、ショパンコンクールによってのみ、演奏会を開けるようになれる、ということもわかっていました。
聴衆のために演奏する必要性を感じている限り、演奏を続けます。」
とラファウは語る。


2007年11月、ウィーン・コンチェルトハウス


彼の生活は音楽だけではない。最近始めた哲学の勉強が、演奏・解釈の能力向上に役立っているという。

「もし、音楽だけに自分を閉じ込めたら、音楽を失ってしまうことになるでしょう。
作品に取り組むとき、僕は主に自分の生活から、例えば、さまざまな実体験や、絵画や文学といった別の芸術分野から、インスピレーションを得ようと求めます。

哲学はとても広範で、認識力を深め豊かにしてくれます。
文学や芸術を探求するきっかけを与えてくれ、それによって見識を広め、僕の個性を開拓することができます。
音楽の哲学である美学の書物を読むことは、プラスの効果があります。
こうした勉強の成果が、僕の演奏する音楽に生かされているんですよ。

これまで、僕にとって常に最も重要なのは、音楽の美しさを人々と分かち合うという願いでした。
今、この願いが世界中で実現しています。」


ショパンコンクールの直後、ナクウォの人々は彼の自宅の窓の下に立ち、彼がどんな風に練習しているのか聴こうとした。

最近、人々は著名なピアニストが地元にいることに慣れた。
町の名誉市民、詩に描かれるほどの英雄が近くに住むことに。



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