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2009年11月10日火曜日

「ショパン協奏曲と信仰」―ラファウ・ブレハッチインタビュー(ポーランド)

ポーランドのNasz Dziennik に、2009年9月26日付けで掲載された、ラファウ・ブレハッチのインタビューです。
インタビューは9月18日にポーランドでCDが発売された直後に行われた模様です。
ちょっと古いですが、アムステルダムでのCD録音や、信仰心について語っており、現在アベイラブルな彼のインタビューとしては、一番最近のもののひとつです。
やはり記録として残しておきたく、アップいたします。

Preludiaにアップした英語

ポーランド語のオリジナル記事のリンクもついています。



2007年11月、ポズナンにて。


ショパン協奏曲と信仰について
Arkadiusz Jędrasik神父が、名ピアニスト、ラファウ・ブレハッチに訊く。



―ドイツ・グラモフォンからの新譜がポーランド市場に出たばかりです。今回はフレデリック・ショパンのピアノ協奏曲ですが、なぜこの曲を選んだのですか。

3枚目のアルバムはオーケストラとの共演にしようと、以前から考えていました。今回のアルバムでは、来る2010年のショパン・イヤーに是非ハイライトをあてたいと思いました。この作曲家による、ピアノとオーケストラのための代表作ですので、この2つの協奏曲に決めました。

―ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、指揮者はイェジー・セムコフと共演しようと思ったのはなぜですか。

ドイツ・グラモフォンと話し合いを始めた頃から、ショパン・イヤーの記念にショパン協奏曲を録音したいという希望を出していましたが、オーケストラと指揮者については、自分一番合ったところと、という段階でした。その後3年間、幸運なことに、世界中の様々なオーケストラや指揮者と、フレデリック・ショパンの2つの協奏曲を共演する機会がありました。

アムステルダムのコンセルトヘボウと初めて共演したとき、サンサーンスのピアノ協奏曲ト短調だったのですが、このオーケストラならば、ショパンの協奏曲は素晴らしい響きになるだろうと感じました。このオーケストラのベルベットのような暖かく、とてもソフトな音、とりわけ弦と木管の色彩に魅了されました。この独特の音色なら、ショパンの協奏曲の雰囲気やオーラと調和するだろうと。ショパンのピアノ作品にはテンポ・ルバートが頻繁に使われますが、その際オーケストラは柔軟に対応し、ソリストに細やかについていく必要があります。アムステルダムのオーケストラはその点うってつけでした。楽団員たちは完ぺきに僕を理解し感じてくれました。また録音場所は音響が素晴らしいコンセルトヘボウで、あのホールのピアノと専用の調律師で、という部分も、僕にとってはとても重要でした。

―録音に先立つ準備の段階で、オーケストラからの協力をどのように得ましたか。

共演にあたり一番重要だったのは、ショパン協奏曲を僕の解釈で展開しても何ら問題ないオーケストラと指揮者を選ぶ、ということでした。解釈のテーマをめぐり、マエストロ・セムコフと何度もミーティングを持ち話し合いました。十分時間をかけて話し合い、録音のため入念に準備しました。ゲネプロと演奏会を含め、合計6回の録音セッションを行いました。こんなに素晴らしいホールで、良いオーケストラとこんなに時間をかけて録音できるというのは、めったにない恵まれた環境だったと言えます。これは僕にとってとても意味がありました。心理的なプレッシャーを受けることなく、2つの協奏曲を丁寧に録音でき、実験や確認もできました。すべて落ち着いて計画し、音楽に集中することができました。

僕たちはまずホ短調を、次にヘ短調を録音しました。録音セッションの雰囲気はとても明るく、楽団員達は、とくに有名な部分は、演奏をとことん楽しんでいました。録音マテリアルを視聴したとき、ホ短調協奏曲については、演奏会でのライブ録音を採用しようと、自分で決めました。

―イェジー・セムコフはいかがでしたか。他の指揮者とどんなところが違っていましたか。

マエストロはカリスマ的な指揮者です。彼が魔法を発散させ、チームは感化されました。マエストロは確信に満ち、とても説得力のある話し方なので、オーケストラは注意深く彼に耳を傾けました。皆イェジー・セムコフをとても敬愛し、コミュニケーションは完ぺきでした。マエストロは僕の解釈を理解し、何も押し付けようとしませんでした。アゴーギクでもダイナミクスでも、僕の考えは全部スコアに注意深く書き込んでいたのです。録音セッションが始まる頃は、オーケストラは全部準備ができていました。このマエストロと演奏できてとても気持ちよく演奏できました。


―このアルバムはショパンの死(原文通り)200周年を記念する意味もあります。前回のショパンコンクールで優勝したことで、あなたのピアニストとしてのキャリアのドアが広く開かれました。ショパンの音楽は、演奏する国で、どんな風に受け止められていますか。

ショパンの作品はどこの国でも高く評価されています。最も顕著なのは日本でしょう。日本ではショパンの音楽はほとんど神を崇拝するレベルに達しています。初めての日本ツアーでは、担当エージェントの要請で、オールショパンプログラムになりました。僕のファンクラブさえ、あるんですよ。

ドイツやその他ヨーロッパ各国でも、ショパン音楽は歓迎されます。最近スペインでショパンの曲を弾く機会がありました。スペインの聴衆はとても自発的に反応し、とりわけバラードと幻想ポロネーズでは顕著でした。マズルカも別の感情引き起こしました。典型的なポーランドのダンスであるにもかかわらず、マズルカはどの国でも聴衆の心を動かし、心の琴線に触れるようです。

―ショパンの曲は(多くの演奏者によって)磨かれ、広く知られています。ショパンの曲を解釈するカギをどうやって見出しましたか。

もちろん、私たちはいろいろな録音を聴くことができますので、作品の版や個別の解釈に感動を得ることもあるでしょう。他のアーチストの考え方にヒントを得て自分の創作的解釈に生かすこともできると思います。

でも僕は、創作者自身が楽譜に残したものに忠実であるべきだ、と思います。 ときには、作曲家の手紙を読み、彼のスタイルや演奏法について弟子たちが書き残したものを読むことによって、作曲家の人格に深く浸透し、インスピレーションを追求することもできます。こうした解釈を追求する上で大きな役割を果たすのが、音楽家の直感です。あるフラグメントの音色はまさにこのようにあるべきで、他のあり方とは違う、と直感が教えてくれるのです。時には自分の直感を信頼して、心が求めることに従う必要があります。

わずか18歳19歳だった若い作曲家の心に、この2つのコンチェルトのような、こんなに美しくて深い音楽が生まれたなんて、ただもう畏れ入るばかりです。

―ショパンの録音で、最も感化を受けたのはどれですか。

ショパン音楽ということであれば、アルトゥール・ルービンシュタインの録音ですね。若い頃の、熱意やエネルギー・自発性が湧き上がるような録音、それから、ルービンシュタインが70歳の頃の、とても成熟して思慮に満ち美しい演奏も。ルービンシュタインからは、威厳ある芸術性が流れ出しています。子供の頃から彼のこうした録音に魅了されたのを覚えています。それから、もちろんクリスティアン・ツィメルマンやマウリツィオ・ポリーニのショパン、クラウディオ・アラウのコンチェルトの録音も。時々マルタ・アルゲリッチの録音に手を伸ばすこともあります。彼女はいつも強い情熱を発散させており、そこからインスピレーションを受けることもあります。


―お話を聞いていると、あなたにとってポーランド人の作曲家では、ショパンが最も重要なのですね。他にインスピレーションを感じる音楽家はいますか。

なんと言っても、カロル・シマノフスキです。本当に美しい音楽です。ここ何シーズンか、世界のいろいろな国のコンサートで、シマノフスキの作品、変奏曲op3を弾きました。シマノフスキはどの国でもあまり知られていませんが、どの国の演奏会で弾いてもとても良い反応でした。シマノフスキの音楽は多様性があり、いろいろな感情や多くの異なった特徴が表現されています。どの演奏会でも、聴衆はとても気に入ってくれました。

―では、シマノフスキの音楽を解釈するカギとは?

ショパン音楽のプロセスと同様、いろいろな方向から追求しています。良い解釈をするためには、自分の直感が助けになりますし、様々な録音に動かされることもあります。たとえば、イェジー・ゴジシェフスキ先生のシマノフスキ作品の録音は、大変美しく興味深いものです。変奏曲op3を開拓する上で、先生からインスピレーションを得て随分助けになった時期がありました。

シマノフスキの音楽には印象主義の要素が多く含まれています。特に、この作曲家の作品の第2期はそうですね。従って、クロード・ドビュッシーの音楽は、このポーランド人作曲家の作品を解釈する上でとても参考になります。シマノフスキでは色彩がとりわけ大切なのですが、適切な色彩を探すとき、ドビュッシーは大きくものを言います。感情や強い表情の表現を助けてくれるのです。

さらに、すべての音楽家にとって、解釈する際一番大切なことは、自然体でいることです。自然な状態でいると、説得力が高まり、真実を表現できますし、聴衆にもよく伝わります。音楽を愛する人々の心を、すっと捕えることができるのです。

―さて、コンサートピアニストとしての生活の中で、プライベートな時間を持ちリラックスすることはできますか。


もちろんです。プライベートな時間は持つようにしています。音楽に埋没しないで他のことをする時間を持つことはとても大切です。そのため、1年のうちどの演奏会に出演するのか決め、計画をしっかりとたてる必要があります。ここはコンサートのための時間、ここはレパートリーを広げるための時間、ここは次のアルバムの録音のための時間、というように。

生活のほとんどは音楽に費やしますが、他の方々と同様、僕も立ち止まって自分を振り返ったりリラックスする時間が必要です。皆さんと同じように、休日には出かけて息抜きをし、考え事をしてリラックスします。コンサートの後は静かに過ごすのが好きです。演奏を終えて車に乗って行くと、とてもくつろぎます。ヨーロッパで演奏するときはたいていいつも車で移動しています。飛行機だとサプライズや冒険がありますけど――飛行機の遅延とか荷物がなくなるとか。車の方が便利だし自由に動き回れます。ドア・ツー・ドアで旅を計画して実行できますから。

―家族とはどのくらい一緒に過ごしていますか。

僕にとって家族は本当に大切です。だから、可能な場合は演奏旅行も一緒に出かけるようにしています。今回のアムステルダムは、家族全員で――両親と妹と一緒に過ごしました。そういえば、初めての日本ツアーは一カ月以上にわたりましたが、やはり家族が同行しました。緊張感や様々なストレスを感じた後、話をして一緒に過ごすことができる人がそばにいることはとても大切です。他の演奏家を見ても、皆さん自分に近い人をツアーに同行させています。ホテルで一人ぼっちというのは、つらいと思います。

―信仰心はあなたに影響を与えていますか。あなたの人生に、どの程度助けになっていますか。

信仰は僕の人生で非常に重要な部分です。演奏者としての生活で、神への信仰は僕の心を大いに支えてくれます。日々の生活を生き抜く上で、困難な時は常に信仰に助けられています。ショパンコンクールの期間中も、祈りが僕を力強く支え、信仰心が僕の気力をつないでくれました。僕の人生において、神への信仰は、僕の力の源です。

―来年の演奏会の計画はどのようになっていますか。

まずは、来年のショパンイヤーの計画があります。2010年はヨーロッパ、アメリカ、日本をツアーしますので、忙しくなります。1年に3つの大陸を周るわけです。だから、演奏会に十分時間がかけられるように、ショパン協奏曲のCDは今完成させたかったのです。演奏会の曲目ですか?ショパンだけではなく、演奏会の前半には、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトそしてクロード・ドビュッシーの曲を演奏します。また、現在、シマノフスキにも取り組んでいます。シマノフスキの音楽はショパンほど有名ではないし頻繁に演奏されませんが、聴衆の反応がとても良いのです。世界にシマノフスキを広めるのは、価値ある仕事だと思っています。ポーランドでは来年の2月と5月に、ショパンのコンチェルトを何回か演奏します。


―次のCDは、どのような曲になりますか。

まず、良い録音になるよう頑張ります。ショパンの協奏曲の後のCDは、ソロアルバムを計画しています。曲目についてはまだ言えません。ドイツ・グラモフォンと、さらに3枚のCDについて契約をしました。

―ありがとうございました。成功を続けられますよう、祈ります。

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