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2008年8月20日水曜日

ラファウ・ブレハッチ、ザルツブルグ音楽祭デビューについて、NYサン紙のレビュー

2008年8月19日付けニューヨーク・サンによる、ラファウ・ブレハッチのザルツブルク音楽祭での演奏のレビューです。
レビュアー:ジェイ・ノルドリンガー

オリジナル記事


(お願い)レビュー記事の他への転載・使用はご遠慮ください。


ラファウ・ブレハッチ:きら星のような若いリスト演奏家

1985年生まれのラファウ・ブレハッチはポーランド人ピアニストのライジング・スター。
彼は先週、世界で最も美しいコンサート会場であるザルツブルクのモーツアルテウムのGrosser Saalで、
会場として最も美しい時期に、ザルツブルク音楽祭の演奏会を開く名誉を得た。

若いブレハッチ氏はアルトゥール・ルービンシュタイン・スクールで学び-これは自然な流れ、
そして、3年前に、ワルシャワのショパンコンクールで優勝した。これも、おそらく、自然な流れと考えられる。

今年のザルツブルク音楽祭は、ポーランド人ピアニストにとって良い夏だった。
かつてのショパンコンクールの覇者、クリスティアン・ツィメルマンも、先週始めに演奏した。
ピョートル・アンデルシェフスキがいれば、もっとよかったのだが。

ブレハッチ氏は少年っぽく、贅肉がなく、実年齢よりさらに若く見える。
小柄で、スリムで、くしゃくしゃっとした髪型。姿勢が極めてピアノにフィットする。
彼は多様なプログラムを弾いた。始まりは彼の多面性を強調するような、これが弾けるんだというものを示すような。
後半は1人の作曲家の夕べ、テーマ・プログラムとなり、
音楽専門家・愛好家の心を「どきどき」させるような、違った側面を見せた。

ブレハッチ氏の一曲目はバッハのイタリア協奏曲--妥当な選曲だ。
この作品は陳腐と見られることもあるが、ブレハッチ氏のようなフレッシュで能力ある弾き手によれば、全く違う。

第一楽章アレグロは快活で、うまくアクセントをつけ、わくわくさせてくれた。必ずしも整然としていないが、音楽的で説得力があった。
第二楽章アンダンテは、もっと聞き手をうっとりさせるような歌い方もできたかもしれない。
しかし、ブレハッチ氏の弾き方は興味深く、奔放さもあって、うまくいったと思う。

第三楽章プレストは、速過ぎることはなく、プレスティッシモではなく、このピアニストの素晴らしい点だと思った。
シャープにコントラストをつけることで、本当に活気に満ちたドラマチックでさえある演奏だった。
しかし、ラインをもっとスムーズに出来たかもしれない。
例えば、リチャード・グードや、ジャン=イヴ・ティボーデと比べると、ブレハッチ氏のラインはカリカリっとしており、よりドイツ的だ。少々ぶっきらぼうな感じもある。

しかし、彼のような弾き手によるイタリア協奏曲を聴くのも悪くない。

ブレハッチ氏のプログラム、次は、リストの3曲:森のささやき、軽やかさ、小人の踊りだった。
彼はこの作品で見せるべき要素:高い技術とロマンティックな想像性を、まさに正しく示した。
つまり、ブレハッチ氏は、正しいリストの弾き手なのだ。
3曲を通じ、ブレハッチ氏が技術的に「すごい」ことをする度に、私の前に座っていた男性が、隣の奥さんの顔を見ていた。
あたかも、「ねえ、どうだい、これは?」と尋ねるかのように。
彼の驚きと喜びは、当然のことだった。

ブレハッチ氏のパッセージワークは概ねスムーズだったと断言できる。
「軽やかさ」は充分(名前どおり)軽かったか?と訊かれたら、「もちろん。」と答えよう。

ただ、ちょっと気になったのは、ブレハッチ氏は若干頭を動かしすぎる。(he is a bit of a head-nodder.)
エフゲニー・キーシンほどではないが、その傾向がある。一般的に、頭を動かしすぎるのは良くない。しかし、幸福な例外ももちろんある。

前半最後の曲は、フランスの印象主義派、ドビュッシーの版画だった。
3曲から成るこの曲の最初「塔」は、少々いじりすぎの騒ぎすぎ。
音が自然につながるのでなく、各場所に置かれた感じ。
また、この曲は荘厳さと秩序、そしてかなりの神秘性も必要だ。今回はそうした要素が欠けていた。

2曲目のグラナダの夕べは、適切な特徴が盛り込まれていた。これは本当に楽しめる演奏だった。
しかし3曲目の雨の庭はちょっとがっかりした。トッカータ的な軽さが必要なのだが、ブレハッチ氏のは重かった。
彼の「軽やかさ」が、ここでは欠けていた。


本文とは関係ありません。ピアノが大好きなくしゃくしゃ髪のイメージです。


休憩のあとは、彼の音楽の根本の根本:ショパンだった。
ソナタ第3番ロ短調を弾く前に、彼は2つのノクターン、作品62のロ長調とホ長調を弾いた。
このノクターンは、(ロ短調と調が合うので)ロ短調ソナタの前に弾く必要性があったのだろうか。それとも、単に時間を埋めるために弾いたのだろうか。
たぶん後者だと思う。ブレハッチ氏はもっとバラエティーを見せるべきだった。

ノクターンロ長調は人を魅了させる曲だ。しかしブレハッチ氏はそのように弾かなかった。
ひとつには、あまり歌っていなかった。フレーズやラインでなく、ひとつひとつの音が聞こえた。(言ってる意味がわかるだろうか?)
良い点として、彼はとても美しい色彩を生み出し、ペダリングも素晴らしいところがあった。(ノクターンではこれはとても重要。)
ホ長調のノクターンはもっと古典主義的な、より強い屋台骨を示すべきだったが、「塔」と同様、構造が不安定だった。

しかし、この若者は、名曲であるロ短調のソナタを誇り高く弾いた。
このソナタは彼の大胆で男性的であっけらかんとしたスタイルによく合っている。
ソナタのほとんどの部分は、洗練され新鮮に響いた。また、ブレハッチ氏は、この曲の構造の細やかな意味合いをうまく表現した。

ゆったりとした3楽章は、このロマン派のピアノ作品の、いや、ピアノ作品全体で見ても、最も美しい部分だ。
もっとまっすぐに、率直に弾くこともできただろう。
しかし、ブレハッチ氏は、下品になったり、一貫性が欠如するようなことはなかった。
最終章、彼は若い虎のように、獰猛で威嚇的でエキサイティングに攻めた。
オーバーペダルが何箇所か、これはよくない。
立ち止まってこの音楽を少し見直した方がいい。しかし、これらはちいさな苦情だ。

聴衆は、このくしゃくしゃ髪の若者に熱狂し、大歓声をあげ足を踏み鳴らした。
結局、若者はショパンの有名な心うつワルツ嬰ハ短調で、聴衆を落ち着かせた。
スタイリッシュでこの曲の真髄が表れる演奏だった。おそらく、このアンコールが、この夜のブレハッチ氏の最高の演奏だったと思う。

彼は一本気で、にこにこして、才能がある。間違ったことをしていても、退屈させない。
明らかに、ピアノを弾くこと、非凡であることを楽しんでいる。
僕は彼がたいそう好きだ。きっとみんな好きになる。

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このレビューを書いたジェイ・ノルドリンガー氏は、ナショナル・レビュー紙のシニア・エディター。
政治等幅広い分野で論説を書き、特にキューバ・中国の人権問題にフォーカスをあてている。
2000年のアメリカ大統領選挙では、ブッシュ候補のスピーチライターをつとめた。
音楽の論評でも活躍。ザ・ニュー・クライテリオンや、ニューヨーク・サンで評論を書いている。
ザルツブルク音楽祭ではレクチャーやパネルディスカッションのモデレータもつとめている。(以上、ウィキペディアより

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ザルツブルクでのブレハッチの演奏に関しては、オーストリア等でもレビューが出ています。
私のキャパが限界(笑)のため、リンクのみつけておきますので、
各言語がおわかりになる方はどうぞごらんください。

オーストリアのKleine Zietung(ドイツ語)

オーストリアのDrehPunktKultur(ドイツ語)


ポーランドのRzeczpospolita(8月17日のきりんの記事のを、もう少し詳しくしたバージョンです。)(ポーランド語)

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きりんの観察
今回のレビューは、今のブレハッチを客観的に正確に見て、率直に表現しており、比較的いいレビューだと思いました。
しかし、演奏をどう見るかは主観的なもの。彼の見方が全部正しいわけではないことも自明です。

私は去年秋から、ヨーロッパツアー、北米ツアーのレビューを追ってきましたが、
毎回、使われる語彙に変化があるように思います。

今回初めてでてきた表現としては、例えば、ショパンのソナタのところで、
The sonata is well suited to what seems to be his bold, masculine, devil-may-care style.
このソナタは彼の大胆で男性的であっけらかんとしたスタイルによく合っている。

masculine(男性的な)は、ブレハッチの演奏では初めてお目にかかった形容詞です。
去年の秋の欧州でwild 、今年春のアメリカ公演で、sexy が出てきて、びっくりしたばかりです。

devil-may-care(あっけらかんとした、向こう見ずの、軽率な)も新しいブレハッチ表現です。
ショパンコンクール直後の評価と、語彙がずいぶん違いますね。

終わりのところで、
He is brash. 彼は一本気だ。
brash は、(がむしゃらで、威勢がよくて、しかし、ぽきっと折れそう)。

ブレハッチは、a phenom (非凡、奇才)であることを楽しんでいる。(千秋というより、のだめ?)
しかし、(ソナタのところで)he can stand to clean up this music a little.
(あまりつっぱしらずに、静かにこの曲を見直してみたら。。)

そして、I like him a lot. You will too. (僕は彼がたいそう好きだ。きっとみんな好きになる。)
(きっとみんな好きになる。は、のだめのぱくりです。ジャンというフランス人指揮者の形容に使われてました。)

経験豊かな(写真を見た感じでは、5,60代?)論者からの、若い演奏家への愛ある助言に思えました。

表現が明瞭で効果的。短い文章でずばっと言い当てます。さすが政治家のスピーチライター。
きりんはこの人の文章がたいそう好きだ(笑)。

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