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2008年5月7日水曜日

ラファウ・ブレハッチ、バンクーバーとサンノゼのリサイタルから―順調なアメリカデビュー

アメリカを訪れる機会があり、ラファウ・ブレハッチの演奏会を鑑賞する機会にめぐまれました。
バンクーバーとサンノゼの演奏会です。


会場:
バンクーバー: ブリティッシュ・コロンビア大学チャンセンターホール
サンノゼ:   ル・プチ・トリアノン・シアター

プログラム:
モーツァルト ソナタk 311
ドビュッシー 版画
シマノフスキ 変奏曲op3
ショパン   前奏曲op28
アンコール  ショパン ワルツop64-2 モシュコフスキ 火花(サンノゼのみ)


ポーランド系住民は2500人という多民族社会のバンクーバー。
主催者のバンクーバーショパン協会は、ポーランド人元ピアニスト(今はコンピュータエンジニア)が、
この国の人にもっとショパンの音楽を、との熱意により、10年前に立ち上げました。

開演に先立つ代表者(中国系)の挨拶は、ポーランド語と中国語も取り混ぜてのものでした。



バンクーバーの演奏会場ブリティッシュコロンビア大学内チャンセンター



音響の良い1000人余り収容の会場は、安価で良い音楽を多くの人へ、特に家族連れと学生へ、
との主催者の方針通り、小雨降る肌寒い金曜の夜、幼児も含め老若男女で埋め尽くされ、補助席も出されました。


一方、サンノゼは、人口の3割がヒスパニックで、電車や街中では、マジョリティがスペイン語を話すという環境ですが、
演奏会はさすがに英語スピーカーばかりでした。

こちらの主催者はベイエリア・スタインウェイ協会。

定期的に優良なピアノ演奏会を開き、会員が集います。バンクーバーとは全く客層が異なり、皆、ピアノ音楽の目利きのようですが、
ブレハッチのことはあまり知られていないようでした。


「彼の姓はどう発音するの?」と聞かれ、教えてあげた女性、実は主催者協会の会長でした。
開演の挨拶で、「ではラファウ・ブレハッチを紹介しましょう。この発音、特別トレーニングを受けたのよ。」と言い、笑いをとっていました。

どちらの会場も、演奏終了後は全員が即座に立ち上がってのスタンディングオベーションです。

バンクーバーでは大歓声に口笛までプラスされ、まるでスポーツの試合でひいきのチームが勝利したかのよう。
本当に皆さんが感動し、喜びを感じているのがひしひしと伝わってきました。



サンノゼの演奏会場ル・プチ・トリアノン・シアター



以下は、サンノゼでの印象です。

ラファウの演奏は、随分「見せる」(魅せる)要素が増えてきたように思いました。
弾ききった時の手のアクション、表現力も多様に、そして、よりパワフルに。


モーツァルトは、最近のレビューでも表現されていたとおり、お茶目でコミカルで本当に楽しそう。
3楽章の231小節・テンポプリモの直前のアダージョの部分、すまして右手・左手で交互にちょっと大げさに弾き、聴衆からくすくすと笑い声が。

名騎手がスマートな名馬を上手に手綱を使って早足で駆けさせたり、リズミカルに躍らせたりしているかのようでした。
クリアーで清明な音。


ドビュッシーは、一変して、深く柔らかな、ビロードのような本当に美しい響きです。
私の席から右手が良く見えたのですが、指全体をしなやかに用いての演奏。

不覚にも泣けてきました。去年の来日時より随分変わった気がしました。

ステージから下がることなく、連続してシマノフスキに入りました。
弾き始める前にうつむいてじっと心を集中させます。


当地の聴衆にはあまりなじみのない曲かと思いますが、あっという間に聴衆が引き込まれ、じっと聴き入っていました。
皆さんが深く感動しているのがよくわかりました。

強い音の和音で彼の上半身が浮き、落下する様子に、肩をすくめ首を振って驚いている男性がいました。


サンノゼで、早めに会場に着いた私は、リハを聴く幸運に恵まれたのですが

(ロビーと会場の仕切りが木製でガラス張りのドアなので、ロビーで充分聞こえるのです。)、

ほとんどの時間をシマノフスキにあて、特に最終曲の最後の部分は何十回も繰り返し、ゆっくり→インテンポ、と練習していました。

もう何年も弾いているレパートリーなのにこの努力。心動かされました。



サンノゼ会場のロビー



会場の都合でリハが始まったのは5時15分位からと、随分遅かったのです。

7時の開演20分前まで、お客さんが随分来てるのに練習しつづけました。

このほか、モシュコフスキ、ショパンの21, 22,23,24番と、モーツアルトの2、3楽章をさらっていました。


練習のかいあってか、シマノフスキの終わり部分、ものすごい迫力でした。


ショパンは、もはや、鍵盤の方がラファウの手に吸い付いてくる感じです。
日ごろの主張どおり、全体をひとつのまとまった曲として弾きこなし、各小曲間の連結の仕方も神がかり的。

奏者とピアノは完全に一体化、感動にみちた聴衆もそこに統合されました。

皆が身を乗り出して、食い入るようにピアニストを見つめ、そのエネルギーを受け取るラファウがまたインスピレーションを放射する、という、完璧なコミュニケーションの循環が成立していました。


終了後、お客さんの会話が耳に入ってきました。

「彼はまさにスーパー・ヴィルトゥオーソだね。」
「大変なスーパー・テクニークの持ち主だ。」
「シマノフスキーの低音部はラフマニノフ並みなのよ。」
「終わりに行くにしたがって、すごくなったわ。」
「彼は本当にお茶目だね。」
「最後の曲(火花のこと)は、ほんとにすごいね。速いね。」などなど。

皆さん目が輝いています。うれしそうです。

サンノゼは客席が300余りの、古いけれども自然な響きが楽しめる素晴しい会場です。
ラファウのナチュラルさと相まって、最高の演奏に思えました。


サイン会があり、サインを求める人々、写真を撮る人々で小さなロビーは沸きかえりました。



ファン一人一人に笑顔で対応するラファウ



私の番になり、「ありがとう、ラファウ。今日の演奏は私にとってベストでした。」と言ったら、
「ベスト?バンクーバーよりも?」と切り返されてしまいました。
「うーん、正直なところ。」
すると晴れやかな笑顔で、「また演奏会で会おうね。」

(ベストというのは、全く私の主観です。バンクーバーも大絶賛のレビューが出ています。)

もうひとつ。サンノゼでは、椅子の高さが合わず、(ラファウが小柄なので、既存の椅子では低すぎる)、
主催者が座布団はないか、と走り回っていました。

結局、椅子の下に小さなカーペットが敷かれたそうですが、せいぜい数ミリしかアップできなかったと思います。
そんな不利な環境でも、平常心で力を出し切るラファウ。

本当に素晴しい演奏会でした。



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